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佐伯由香利の日記
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バレなかった。
きのうのゆかの行動は。

というのもりゅうちゃん、帰ってくるの遅かったんだあ。
あのお墓の大掃除をまた頑張ってたみたいでクタクタだった。
外に夕ご飯を食べに出る元気もなく、ゆかがコンビニでいろいろ買って帰ってきた時には、りゅうちゃんもう寝ちゃってた。

はあ。
ゆかなにやってんだろ。
りゅうちゃんに隠れてこそこそこそこそ。
バレなかったのは良かった、と思うけど、バレて、責められたほうがいいかも、とか思っちゃった。
ほんとはゆかが一人で変にかぎまわったりしないで、りゅうちゃんにドーンとぶつかって全部聞き出したらいいんだけどね。
なんていうかりゅうちゃん、見えない壁みたいなものを張り巡らせてるんだよね。
笑顔でいつもゆかに優しくしてくれるんだけどさ、笑顔の上に、絶対に取れないヴェールみたいなのをまとってる感じ。
うまく、説明できないんだけど。
でも、笑顔が「仮面」か?っていったらそういうわけじゃあないの。
ああ、もうホントうまく説明できない。 
なんだろう、この近くにいるのに近寄れない感は。
たぶんりゅうちゃんは、結婚して一緒になっても、死ぬまでそのヴェールを外さないよ。
ゆかが、踏み込めない領域なんだ。
でもゆかは知りたい。りゅうちゃんのこと全部。
大好きだから。
りゅうちゃんはそれをたぶん許さないんだろうけど。
人って大抵誰にも言えないことを抱えてたりするものだけどさ、せめてゆかだけには言ってほしいんだよ。
どんなことでも。
驚いたり、怖がったりするかもしれないけどさ、でも、絶対に嫌いになんてならない自信があるんだよ、ゆかには。
だからもっとゆかを信じて。
結婚するまでに、抱えてるもの全部ゆかにぶつけてよ。
仕事のことでも。友達のことでも。過去のことでも。
ゆかは、なにがあったって大丈夫だから!
いろいろ仕事をこなして来て、結構度胸もついたんだからね!

いつかこれをりゅうちゃんが読んでくれる日がきたら、いいな。

 
今日は、朝起きたりゅうちゃんに、「どうしても行ってみたいところがあるの」とわがままを言って、あの牧場に連れて行ってもらうことにした。
りゅうちゃんは何も疑わなかった。

もしかしてとっくにバレてるのかもしれない。

それでもいいや。
バレてもいい。
それが、りゅうちゃんの壁を壊すきっかけにでもなってくれれば。
心の奥ではそう願ってる。

ゆかたち、もっとケンカとかしないとダメなんだよ、きっと。

そうおもった。

仲がいいのはとっても良いことだけど、たまには本音でぶつかってきて。
ゆかもそうしたい。

料理をめんどくさがってコンビニに通うこと。
デートの約束の日を勘違いしてすっぽかしちゃったこと。
ぶきっちょなとこ。
甘えんぼなとこ。
わがままなとこ。

もっと叱っていいんだよ。
もっと怒っていいんだよ。

 
運転するりゅうちゃんの横顔みてそう思った。

「なに?」って、ゆかに気づいて笑うりゅうちゃん。
優しいから大好き、大好き、大好き 大好き。

だけど、りゅうちゃん、ゆか、りゅうちゃんの故郷怖いよ。
あんな寂しい場所にお墓があるなんていやだよ。
人目を避けるようにして、まるで、隠されるように存在してるなんて寂しいよ。
それが「中塚」のしきたりとかなのかもしれない。
でもゆかは、もうあそこにいきたくないよ。
こわいよ。
もう、行きたくないよ。
こわいよ。

そんなことを思っているうちにあの牧場に着いた。
看板がある前で車をとめてもらう。
りゅうちゃんも車を降りようとしたからそれを止めた。「ちょっとまってて」って。
すぐもどってくるから、お願いだから、そこで待ってて。

りゅうちゃんは疑いもなしに頷いた。

気をつけてね。

またあの笑顔。

それがゆかのことを不安にさせる。

どうして、なにも追及してこないのかな。

初めて来る土地なのに。

なにも疑ってさえいない。

心配してくれるくせに。

それとも、ゆかのことなんて、ほんとは…。




「おねえちゃん。」


 

その声で我に返った。
驚いた。
きのうのあの女の子が駆け寄ってきた。

「きてくれたー。」って嬉しそうに笑う。
こんなときになんだけどほんとにかわいい子。
昨日も今日も一人で遊んでるなんて、ちょっとかわいそうだなあ。歳の近い子がこのへんにはいないのかな。

さて、ここまで無事に来れたからよかったけど、昨日の話では「外塚」のことを話してくれるのは、家で、ということだったっけ。
ここからさらにこの子の家までいかないといけないんだ。
どれくらい時間かかるかなあ。
女の子に尋ねると「ちょっとまっててね。」といって牧場の奥のほうへ走っていってしまった。
もしかしてこの奥に家があるのかな。
それなら近くてラッキーだけどみたところ民家はなさそうだなあ。
牧場の事務所らしき建物もあるにはあるけど、すでに廃墟だからさすがにここに人は住んでいなさそうだしね。

女の子がなかなか帰ってこないので時間潰しにこれを書いてます。
りゅうちゅんはいま何してるかな。
心配してこっそり後をつけて来てくれてたりして!?

もしそうなら嬉しいよ。
素直にすっごく嬉しい。

あ、女の子が帰ってきた。
そういえばまだ名前聞いてなかったね。
どうやら「さなちゃん」て呼ばれているらしい。
かわいいなあ。

さなちゃんは「こっちきてー。」とゆかの手を引っ張って歩き出した。
この先になにもないけどどこいくんだろう?

やっとおうちにかえれるの、というさなちゃん。
きょうやっといしがわれて、ひさしぶりにおうちにかえれるの。

??????????????

石が割れたから家に帰れるとはどういうこと?
ひっかかったけどゆかはついていくしかない。

さなちゃんは古い井戸の前で足を止めた。
こんな井戸があったんだあ。
まわりには草がぼうぼうであっちからは全然みえなかった。

えっとね、そとづかのことしってるのはおじいちゃんたち。

さなちゃんがつたなく喋る。

でもそとづかじゃなくて、ほんとは、なかづか、なんだよう。

といってニッコリした。

え?
わけわかんない、なんのことかな?
ゆかが聞きたいのは「中塚」じゃなくて「外塚」のほうなんだけど。
やだなあ、どうでもいいところの話きいてる余裕はないんだよね。
りゅうちゃんを待たせてるし。
だから断ろうとおもった。
せっかくだけど、ゆかは「外塚」のことを聞きたいからって。
そしたらさなちゃんがムッとしたのが分かった。

ともだちになってくれるっていったのに。

ああ、まあそれは確かに、今でも友達じゃん。仲良くなったし。
でも。
あーあ、ゆかにとっては時間のムダだった。
こんなちいさい子供に聞いたのがやっぱり間違いだったんだ。
もっとお年寄りとか、家に直接訪ねていけばよかったんだ。
あああ、もう後悔しっぱなしだよ。
ゆかの人生ってなんかいつもこんな感じ。
でも、いっか。
もういっか。

りゅうちゃんに聞こう。

ケンカになっても、教えてくれなくても、ゆか、ちゃんとぶつかっていくよ。
逃げたり、笑ってごまかしたり、こそこそもしない。しつこくしつこく聞いてみちゃう。なかなか答えてくれなくても。いつか教えてくれるかもしれないから。
それでいいんだよね。
それがいいんだよね。
いつもいつも考えすぎて、迷って、遠回りしすぎだけど、でも…。
それで、いいんだよね。

さなちゃんにお礼をいって、りゅうちゃんの待つ車に帰ろうとした。
ごめんね、ありがとね、じゃあ…。
瞬間、スカートを掴まれてよろけた。
すごい力に驚いた。
信じられない顔で振り向くと、さなちゃんが…。
さなちゃんの顔が…。
なにこれ!
なにこの顔!
やだあ!
怖い!
離して!
また引っ張られて前へ進めない。
逃げ出そうとしたけど、子供の力とは思えない強さで井戸まで引き戻された。服が食い込んで痛い。
離して、やめてって叫んだ気がする。

みいちゃんはやくそくまもってくれたのに。

そんなさなちゃんの声を聞いた気がする。
みいちゃんて、誰。

わけがわかんないまま、ゆかはりゅうちゃんの名前を何度か叫んだ。
助けを求めた。

でも抵抗もむなしく、それに引っ張られて転んでしまい、それと目が合った。

目が…合った。

この世のものじゃ、ないものと。

やくそくまもるよ。
なかづかのことおしえてあげるよ。
おねえちゃんにも、このひとにもね。

それ、は、微笑んだかのように見えた。

そして。

ゆかのお腹を触った手はまるで、まるで…。

 

 

 





全身に水を感じた。
冷たくて心地よかった。
目を閉じていたけれど、どこかに落ちていくんだなって感じた。

りゅうちゃんの故郷よりも恐ろしい場所があったなんて。



もう、戻れない。

やり直せない。


ごめんなさいりゅうちゃん。 
ごめんなさいりゅうちゃん。
ごめんなさいりゅうちゃん。

疑ってごめんね、りゅうちゃん。


ごめんね。



さよなら。

 

 

 

 


終わり。

 

 

 

 


連動ブログ小説「ダレモシラナイモノガタリ 第二部 The last vacation 佐伯由香利編」のご愛読ありがとうございました。
よろしければこちらの「The last vacation 三倉隆司編」「The last vacation 高杉誠編」も合わせてお楽しみ下さい。 



第一部はこちらです。
ダレモシラナイモノガタリ 第一部 最後のなつやすみ 斉藤みのり編
最後のなつやすみ 早川沙織編
最後のなつやすみ 豊原修一編



第三部はこちらです。  
ダレモシラナイモノガタリ 第三部完結編 私の七つのお祝いに 倉田麻衣編
私の七つのお祝いに 土谷千佳編
私の七つのお祝いに 方城瑠璃編
私の七つのお祝いに 青威編



この物語はフィクションです。
登場する人物、団体名は架空のものです。
この物語の無断転載、無断使用はお断りいたします。
 



 

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